小さな島に恋をした

私は、南の国の小さな島に恋して住み始めた。そこは、すべての生き物がまん丸の中に調和している、まるで小さな宇宙のような島なのだ。

初めてカオハガン島を訪れたのは、2010年2月。当時働いていた雑貨店で、カオハガンキルトを販売していたのがきっかけでカオハガン島を知った。浅黒いおばちゃんが南国らしい鮮やかな配色のキルトを縫っている写真を見て、どんな島なのだろうと思いを巡らせた。

カオハガン島に訪れてみたら、驚きと感動の連続。島は生き生きした緑色の葉っぱが揺れる木々がこんもりと島を覆っていて、その周りを美しすぎるブルーとエメラルドグリーンの海が取り巻いている。ポントグと呼ばれる白浜のビーチがあり、そこには燦々と太陽が降り注ぎ、肌に健康的なエネルギーを注いでくれる。島の子どもたちは元気にくるくると走り回ったり、木に登ったり、海で水しぶきをあげて、けたけたと大笑いしている。心から“今”を生きている子どもたちの笑顔からは、幸せが溢れていた。大人は、恥ずかしそうに、でも、きちんと笑顔であいさつをしてくれる人、陽気な口調で「一緒に飲まないか。」と、誘ってくる人、のんびりとハンモックで過ごしている人、いろんな人がいる。みんな穏やかな、のんびりとした空気に包まれている。

海岸線沿いにある、竹でできた高床式ロッジには、ベッドとランタンだけがあり、大きな窓を全面開けると、爽やかな風が吹き抜けてゆき、自然の真ん中に佇んでいるような開放感。三食の食事は、メインの建物、母屋にて宿泊者みんなで頂く。島の持ち主で、宿泊施設を運営している崎山克彦氏、順子夫人も一緒だ。新鮮な魚介類を使った料理や、野菜たっぷりのメニューは心も体も満たしてくれた。初めて出会う他の宿泊者との交流も楽しい。ハワイやバリなど、有名なリゾート地を選ばずに、あえてカオハガン島を訪れる、良い意味で変わった方が集まるわけだから、話が合うのだ。

夜は、ロッジのランタンの灯りのだけで過ごす、初めての体験。ベッドに潜り込み、目を閉じてみる。ポシャーン、ポシャーン。ゆっくりと、静かに潮が満ちていく海の音。ザワザワ、ザワザワ。風に揺れる椰子の木が、お互いの葉を擦り合わせている音。チーチッチッチッ。ヤモリが鳴く音。言葉では言い表せないいろんな音が聞こえてくる。初めてくる場所で、真っ暗闇の中にいるという小さな緊張感と、自然が誘い出す心地よい眠気の中、いつの間にか眠りにつく。

朝になると、昨夜までロッジの近くまでたっぷり満ちていた海水が、彼方遠くまで引いている。昨夜は海だった場所は、陸地になって、緑の藻の小さな丘がぽこぽことたくさん顔を出している。多くの島民が潮の引いた海辺へ出て、貝や不思議な生物を拾ってバケツに集めている。バケツに集められた魚介類は、朝食になるようだ。大きなお皿に盛られたたくさんのご飯と、温かいスープや煮付けを家族で肩を寄せ合いながらほおばっている。村を散策していると、「おいで。」と手招きされ、「食べていったら?」と、誘われているようだ。ほんの一瞬、島に訪れているだけの旅行客をこんなにも自然に受け入れ、迎えてくれる島民の温かさ。その輪の中に入れば、もう家族になってしまったのではないかと思ってしまうような人懐っこさが、今まで感じたことのない感情を呼びさませた。言葉ではうまく表現できないが、心のどこかに小さな明かりが灯ったような、とても心地よい感覚。もっと長く感じていたい、純粋にそう願った。そこから、その願いが叶うまでに5年もの月日が流れていた。

長期的に島で暮らしてみたいという私からの申し出に、島の持ち主である崎山さんは、「いいよ。おいでよ。」と、まるで「家に遊びにおいでよ。」という感覚で承諾してくれた。舞い上がった私は、すぐに、日本でのぬくぬくした環境と、有り余るほどのたくさんのものをほとんど手放した。スーツケース1つ抱えて、2015年2月1日から島に住み始めたのだ。

HITOSAJI

フィリピンの小さな島から。シンプルな生活のひとさじ。

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